2019/10/01
雉編集室 エッセー 73
新本孝子

 『輪地切り』

 9月1日、阿蘇地方で「輪地切り」が始まった、と熊本在住の友人が知らせてくれた。毎年早春に行われる野焼きの際の、山林等への延焼を防ぐ為、野焼きする堺の草刈りや木伐りを「輪地切り」という。あの壮大な野焼きも「輪地切り」をはじめ、あれこれ季節ごとの準備があり、土地の人の地道な努力故のあの「野焼きの火」なのだと。
作業は阿蘇全域で12月まで続き、総距離は530qだとか。秋吉台や阿蘇山等、「季節の風物詩」として、実際に見に行ったり、映像で見たりして、あの壮大な野火を俳句に詠んだりしてきたと、少し反省している。安蘇地方は一年半前には地震や水害による災難もあり、仮設住宅の暮らし等、訪ねたことがあるが、土地の人は、喜びも悲しみも阿蘇山と共にさぞやと。他の全てに言えることかもしれないと、友人としみじみ話したことである。


篠崎順子

 『角島』

 かれこれ30年前のことである。当時は離島であった角島の小さな診療所へ夫は赴任した。或る日「先生、うちの花子が怪我をした。保険で診てくれませんか。」と。往診にいったところ花子はなんと人ではなく牛であった。傷の手当はしたが保険診療としては当然請求不能。勉強していない牛の怪我を上手く治した。少しは勉強している人間の病気ならばもっと上手く治すにちがいないと、名医(迷医?)の風評がたち患者が急増。夫と私の若き日の思い出の一齣である。10年ばかり勤め、架橋により島を離れた。
 先日、句会の吟行で角島を訪れた。エメラルドグリーンの海士が瀬に架かる角島大橋は美しすぎる橋として山口県ナンバーワンの観光名所となっている。岬が牛の角の様に突き出ていることから、角島の名前が付いたといわれている。海辺に近い尾山地区は漁業,丘側の元山地区は農業が盛んであったが、橋が架かった事により、泥棒被害は増え、鍵をかけなければならなくなったとか。桃源郷のような島は今では様変わり。島民の幸福度は果たして増したのだろうか。


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